がんは早期発見が重要
日本における年間死亡数は150万人台ですが、その死因の第1位は悪性新生物(いわゆるがんなど)で、約38万人(24.6%)にのぼります。これは第2位の心疾患 23万人(14.8%)と比べて圧倒的に多いことがわかります。悪性新生物は昭和56年以降、変わらず死因第1位であり、いまだに上昇の一途をたどっています。
死亡率の年次推移(人口10万人対)
厚生労働省HPより
この悪性新生物を臓器別にみてみると、胃がん4万人、大腸がん5.3万人、食道がん1.1万人、肝臓がん2.3万人、すい臓がん3.9万人、胆のう・胆管がん1.7万人となっており、消化器臓器のがんが計18.5万と全体の約半分を占めています。
私はこれまで15年以上、消化器がんの診療に携わってきました。特に専門である早期がんの内視鏡治療によってたくさんのがんを治療してきましたが、進行がんで発見された患者さんが亡くなっていく現場にも立ち会ってきました。患者さんががんに苦しんで命を落とすことは、本人はもちろん、ご家族や、ご友人、また診療を担当する医師にとっても非常につらいことです。
しかし実は、がんは早期に発見さえできれば治療はそれほど難しくなく、完治させることも可能です。自覚症状が出てから検査してもすでに進行がんであることが多く、症状のないうちから定期的な検査・検診を受けることで早期発見が可能になります。
胃がんとは
胃がんは、胃粘膜の正常な細胞が、何らかの原因でがん細胞になることで発生します。がん細胞は「大きくなること(浸潤)」と「遠くへ広がること(転移)」で進展し、徐々に体をむしばんでいきます。胃がんは胃の内側の粘膜から発生します。サイズが大きくなるとともに、より深くまで浸潤し、胃の外側へと進展します。がんの深達度が深くなるほど、リンパ節や他の臓器へ転移する確率が高くなります。浸潤と転移の程度によって胃がんの進行度(ステージ)が決定します。
ステージI期で発見されれば、5年相対生存率(5年後に胃がんで死亡した患者数を計算した生存率)は96%ですが、IV期ではわずかに6.3%です。つまり早期に発見することが非常に重要です。
日本では、毎年12万人の方が新たに胃がんと診断されます。男性に多く、40歳代後半から増加し、80歳代でピークとなります。胃がんに罹患するリスクは男性の方が高く、女性と比べ2倍多く発症します。男性は生涯で、9人に1人が胃がんに罹患することになります。ピロリ菌除菌治療の普及などもあり、男女ともに罹患率は減少傾向です。
胃がんの症状
胃がんの代表的な症状は、心窩部(みぞおち)の痛み、違和感、不快感、食欲不振、胸やけ、腹部膨満感、嘔気(吐き気)、体重減少、吐血、黒色便などがあります。胃がんは出血しやすいため、健康診断の採血などで貧血を指摘され偶発的に発見されることもあります。ただしこのような自覚症状が出現するのは、胃がんがかなり進行してからになります。このような症状があれば速やかに医療機関を受診しましょう。
胃がんの原因
原因(リスクファクター)として、ヘリコバクターピロリ菌の感染、生活習慣(塩分の多い食事、喫煙習慣)、肥満などが報告されています。特にヘリコバクターピロリ菌は長年かけて胃の慢性的な炎症を起こし、やがて胃がんを発症する原因となります。日本では胃がんの原因の90%以上はピロリ菌感染と言われています。健康診断や人間ドックでピロリ菌感染の可能性を指摘された方や、親兄弟がピロリ菌感染を経験している方は、一度胃カメラ検査を受けてピロリ菌がいないか確認し、陽性だった場合は胃がんを予防する目的で除菌治療を受けると良いと思います。
胃がんの検査
胃がんの検査には、胃カメラ検査と胃部X線検査(バリウム検査)があります。胃部X線検査とは、発泡剤で胃を膨らませ、バリウム(造影剤)を飲んでX線(レントゲン)で胃部を観察する方法です。簡便で安価な検査ですが、デメリットとして放射線被ばくをすること、死角が生じることがあり早期胃がんなど小さな病変を見逃す可能性があること、またバリウム検査を受けた患者さんに話を聞くと、「胃が膨らんで気持ち悪い」、「げっぷを我慢した状態で硬い台の上をゴロゴロ転がるのが辛い」といった意見をよく聞きます。
一方、胃カメラ検査では、カメラを介して直接胃粘膜を観察することができます。特殊な光や薬剤を使用して病変部を強調し、必要に応じて組織の採取をして病理組織検査を行うことも可能です。胃カメラ検査は胃がんの確実な発見において優れた方法です。デメリットとしてはスコープが喉を通過するときに咽頭反射が出て「オエッ」となり苦しい、バリウム検査と比べるとやや値段が高い、といったものが挙げられます。当院の胃カメラは患者さんから特別な希望がない限り、鎮静剤や鎮痛剤を使用して眠ったまま検査をします。準備→検査→リカバリー(鎮静後の休憩)まですべてストレッチャーに乗って寝たまま移動できるのでとても楽です。
またバリウム検査は「胃」のみをみる検査ですが、胃カメラは咽頭、食道、十二指腸などを通過するため、それらの臓器に異常がある場合も、観察や生検が可能です。胃の調子が悪いため胃カメラを受けたら咽頭がんや食道がんが見つかる、などのケースはよく経験されます。
右披裂部の咽頭がん
早期食道がん
早期十二指腸がん
胃がん検診について
当院では横浜市がん検診を行っております。胃がん検診は、内視鏡またはエックス線(バリウム検査)が選択できますが、当院では内視鏡検査しか受けられませんのでご注意ください。また胃がん検診は2年度に1回のみなので、前年度に受けられている方は受けることができません。対象年齢は50歳以上で自己負担額は2500円です。
また当院は、がん検診でも鎮静剤を使用することができる医療機関です。ただし鎮静剤の種類と使用量は定められているので、完全に寝たまま検査を受けられない場合もあるのでご注意ください。
早期胃癌(左:通常光観察、右:特殊光(NBI)観察)
特殊な胃がん
胃がんのほとんどはピロリ菌感染に由来することが報告されています。しかし、ピロリ菌の感染がない方でも稀に胃がんを発症することがあります。これはH.pylori未感染胃癌と呼ばれ、全胃がんの中の1%程度と報告されています。H.pylori未感染胃癌には次のようなものがあります。
- 胃底腺型腺癌
- 胃底腺粘膜型腺癌
- 腺窩上皮型胃腫瘍(ラズベリー型胃癌)
- 白色平坦隆起性病変
- 未分化型腺癌(印環細胞癌)
- 低異型度高分化型腺癌
- 胃型形質の分化型腺癌
- 胃噴門部癌・食道胃接合部癌
- 遺伝的背景に伴う胃癌
- 自己免疫性胃炎に伴う胃癌
など多くの種類があり、見た目も様々です。
これらのようなH.pylori未感染胃癌は診断が難しく専門性が高いため、見逃されやすいので注意が必要です。
胃底腺粘膜型腺癌
胃底腺型腺癌
腺窩上皮型胃腫瘍
胃型腺癌
胃がんの治療
胃がんの治療には、内視鏡治療、外科治療、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療などがあります。がんのステージによって適切な治療法を選択します。胃がんは早期に発見さえできれば、より体の負担が少ない治療で根治することが期待できます。もちろん早期であれば経済的な負担も軽く、社会復帰も早くできるでしょう。私はこれまで早期胃がんに対する内視鏡治療を1000件以上おこなってまいりました。そこで得られたノウハウを最大限に活かし、早期発見、早期治療にお役に立ちたいと考えています。
また当院は横浜市立大学附属病院、横浜市立大学附属市民総合医療センター、横浜市南部病院など胃がんの診療実績が豊富な病院と連携しておりますので、治療が必要な際は、速やかにご紹介いたします。